第4回です。
では,ぼちぼち技術論に入っていきたいと思います。
有料セミナーで話をする内容なのですが,コーチングを調べるとそこかしこに載っている内容でもあります。
知ってても,知ってるだけじゃダメなヤツってことです。
僕が日頃1on1セッションを行っているいわゆるコーチングは,1対1でしっかりと対話ができる場所(最近ではオンライン)で行いますが,普段の会話の中に少しずつ盛り込んでいくようなショートコーチングも併用できると良いです。
会社でいっしょのチームなら,時間を共有するタイミングが多いと思うので,1on1と普段の対話の両方ができると効果は高いです。
上司や先輩は,基本的に聴き手で在ることを意識したいものです。
しかし,役割のうえで,何をしなくても話し手になることが多く,ミッションやその目的,到達イメージの共有は話し手として最初にリードしなくてはなりません。
伝えるべきことまで,己の中から見出せということはできませんから,コーチングを用いる場面とそうでない場面は見極める必要があります。
そういう難しい条件下において,上司や先輩は聴き手で在ることを忘れないでいて欲しいのです。
聴き手として機能するには,傾聴のスキルはマストです。
たかが傾聴,されど傾聴です。
傾聴の効果は本当に絶大です。
相手の話の意図や核心をしっかりと聴き取ることができるという点だけ観ても効果はとても高いと言えます。
さらに関係性の向上や,こちらの話を理解されやすくなる点でも有用であることに違いはありません。
コーチングを学ぶひとは,最初の壁である「傾聴」の体得で多く挫折するように思います。
それはこの前提である,横の関係が出来上がっていないことに起因すると考えられますが,このマインドセットへの関心はそれほど高くなく,繰り返しコーチングが機能するか否かはマインドセット次第であると伝えていても,なかなか浸透しないのです。
繰り返しますが,傾聴は最も重要で,最も難しいスキルでもあります。
そしてこれを修得するためには,基盤として横の関係を意識して持っていなくてはなりません。存在として対等の関係であることを理解,腹落ちしていなければ決して傾聴はできないものです。
そういう意味で,先輩後輩,上司部下のような関係がベースにあるひとたちのコーチングは本当に難しいのです。
元来,コーチングではコーチとクライエントの関係でのみ行うのが普通です。これに他の関係性が被さると,とたんにコーチングの難易度があがります。コーチは客観的な視点を持ち続けなくてはならず,親子とか恋人同士とか,教師と生徒など,愛情や友情のような感情に深く入り込んでしまえるような関係性があると,重要な客観視点が損なわれやすいのです。
コーチングだけでなく,対話による対人支援技術の多くが,多重関係を嫌い,第3者によって施術されるのが最も効果的であるというのはそのためです。
それを踏まえて,傾聴を練習してみて欲しいです。
最初は,そんなに難しくないレベルで試してみましょう。まずもって以下の約束をしっかりと守ってみて下さい。
1.話をさえぎらない。
2.手を止めて,正面を向いて話を聴く。
3.相手の話を理解しようと努めて聴く。
三つ目が少し難しいかもしれません。
相手の話を理解しようと努めるというのは,相手の話を否定したり,論破したりするのではなく,相手の話の核心や意図をしっかりと読み取り,言語化できるレベルまで聴くという意味です。
この時点では,否定することが駄目だと言っているわけではなくて,まずは相手の話を100%理解することに努めて,そのうえでこちらの話をするというスタンスを身につけて欲しいということです。そうすると自動的に否定する気持ちは横に置いておくことになり,こちらからの話は意見とか指導よりもまず「問い」に変わると思います。
「問い」と言っても,相手の意図や言葉の意味,定義,あるいは「こういう理解でよいのですね?」といった確認の意味に近いかもしれません。
はじめの一言二言で,概ね相手の話を理解できてしまうことがあると思います。あるいは,部下の話がまどろっこしくて要約したくなってしまうこともあると思います。
そういう気持ちをまずはリセットしてください。
あなたの想像とは異なる考えを話したいと思っている可能性はいかなる状況下でもありえます。あなたの想像は完璧ではありません。
まして日本語は,最後の一文字が話されるまで,何も確定しないことがたくさんありますから,相手の話の内容を一方的に決めつけたり,結論づけたりすることなく,まずは100%聴き取ることだけに集中してください。
そのために,傾聴のスキルには気をつけるべき事項がたくさんありますが,一度にそれをしようと思うと技術的になってしまって効果はあがらないと思うので,とりあえず3つの約束をしっかりと守ることを意識しつつ,聴いていきましょう。