部下や後輩の指導に向いていないと思ったひとに知って欲しいこと。#3

横の関係をつくるというのは,言うのは簡単ですけれど,実際にやるのはなかなか難しいものです。

気をつけていないと,大人は子どもについ合意形成の手順を無視して一方的に価値観を押しつけたり,「いい?わかった?」なんて有無を言わせない同意要求したりしてしまうことと同じように,上司から部下や先輩から後輩の関係でも無意識に縦の関係を基軸にしてしまうのです。

これはつまりそもそもの価値観として,上下関係を身につけてしまっているということなのですが,なかなか横の関係が築けず,この価値観を書き換えできない人には,役割としての上下関係と,人として対等であることは矛盾しないことをまず知って欲しいと思います。

タメ口でいいよとか,食事代は割り勘にしようとか,そういう表面的な話ではなくって存在としての対等さです。

考え方,意見,価値観,捉え方,感じ方,そういうものは部下よりも上司,子どもよりも大人の方が洗練されていて一般常識をより多く含めているという前提に立てば,より高度な価値観である上司(大人)と,まだまだ未熟で間違っている可能性が高い部下(子ども)という関係ができあがりますが,その価値観の形成にかけた時間や練度は個々に異なることはあたりまえだけれど,各々が各々のそれに敬意を払って尊重されるべきものだという前提に立てば,どちらが優れていて,どちらが劣っているという考え方にはならないことに気が付いてもらえれば良いかもしれません。

そうは言っても,「部下たちはまだ未熟で,まだまだ間違った考えばかりで直してやらなくてはいずれは本人が困るんだ」などと,否定的に感じることはあると思います。

しかし一方で,これらをどれほど否定したとしても,そのような考え方や感じ方が”在る”ことを誰も否定はできません。

いくら間違いだと主張したところで,それらを無かったことにすることはできません。

そこに在る以上,存在を否定することは誰もできないということをまずは認識されるとよいかもしれません。

コーチングを成立させるためには,横の関係は必須です。
これをおろそかにして技術だけ学べば,いかにもそれらしいものができたとしても,それはコーチングとは呼びません。

世にそのようなコーチングがたくさん出回っていることも知っていますが,本当の意味でコーチングは機能しないと思っています。

なぜならコーチングで最も大切なものはそのマインドセットにあるからです。

誘導的,指導的にコーチングを用いれば,心理的安全性は簡単に壊れ,その意義を無くします。自由な選択が許されない場で主体性を育むことはできません。できているように見えて,それはコーチに誘導されているだけで主体性やジリツとは言いがたい別のものです。