第8回です。
いったん今回で完結です。
コーチングの基本スキルの3つ目。
「問う」。
問うスキルは,コーチングの要でもあります。
しかし,コーチングの妙はこれだけではありません。
10年以上コーチングを用いて部下の人材育成に努めた者として言えば,「問う」ということはすなわちコーチングの代名詞のようでもありますが,同時に「フィードバック」スキルという双璧を成すスキルをもってこその「問う」だと感じています。
「フィードバック」はもう少しチャレンジングなスキルになります。
コーチングの肝はいずれにしても話をしっかりと聴くことですから,これについて触れるのはもう少しあとにして,まずはここまで練習してきたことを意識して,部下や後輩たちと接してみて下さい。
「問う」
問うということは,クライエントが自らその問題や課題に対して真摯に向き合うことです。
その中で新たな気付きを得ることもありますし,見えていなかった自身のリソースへのアプローチになることもあります。
コーチは可能な限り開かれた質問によって,自由な発想を促して下さい。思い込みの制限を外し,これまで考えていなかった領域にクライエントが手を伸ばすような問いかけです。
クローズドクエスチョン
yes or no で応える質問です。
対話の始まりや,場を温めるときによく意識して使いますが,あまり意識する必要はありません。
意識するとすれば,次にあげる応えに広がりがある問いかけはできないだろうか?という観点で,クローズドクエスチョンもみてあげることかもしれません。
たとえば,上司からの指示が不足していると悩む後輩がいたとして「もっとちゃんと指示して欲しいの?」と問いかけても,思考が進むことは少ないかもしれません(内省力の高いひとは,このようなキッカケだけで十分に思考を深いところまですすめられますが)。
オープンドクエスチョン
自由に応答できる問いかけのことです。
コーチングでは主にこちらの問いかけを用いて,思考のバリエーションを増やし,想像力をかき立てることで,気が付いていなかった視点を持ったり,考えてもみなかった答えを導き出します。
先ほどの例で言うと,
「上司に求めるのはどのような態度ですか?」
「あなたの理想の上司ならどのように振る舞うでしょうか?」
「上司からそのような振る舞いを引き出すのに,あなたができることは何でしょうか?」
「上司からの指示がないと,どのようなことがおきますか?」
「上司の態度にはどのような意図があると思われますか?」
「その上司としっかりとコミュニケーションが取れている方が,もしも他にいらっしゃるとすれば,どのように接しているでしょうか?」
など,たくさんの問いかけが生まれます。
話の内容や期待する展開にあわせて問いかけをしていくとよいでしょう。
意図性
問いかけは意図性をもって行うものです。
コーチングはカウンセリングと異なり,話を聴くことでクライエントの回復を支援するものではなく,未来へ向けて共に改善,向上を図るものです。
意図性をもった問いかけを心がける必要があります。
しかし,この意図性は誘導的であってはいけません。
「もっとあなたががんばることはできませんか?」
「なぜ,あなたはこのようなことをしたのでしょうか?」
といった,質問のカタチをした,別の何か(たいていは自責を求める行為)に変換することは,大枠で「意図性」でしょうけれど,コーチの意図をそのまま「問い」にすることは避けたいところです。
もう少し視野が拡がるような問いかけにしようとか,コーチが見立てたクライエントの行き詰まりの原因へ想いを巡らせるような問いかけはないだろうかとか,そういった幅を持った意図性のことです。
答えはコーチは持っていない,というのがコーチングのスタンスですから,問題の真因や課題の解放について,コーチはそもそも答えを持っていない以上,これはどうかな?あれはどうかな?といろんな方面からアプローチしていくのがセオリーです。
まとめ
8回に渡って書いてきたことは,コーチングの中ではまだまだ前半も前半です。話を聴いて,問いかけて,視野を拡げる。
これらは,コーチングセッションで言うところの,ラ・ポール形成(信頼関係を築く)と,課題の特定,明確化に相当する部分です。
このあたりをしっかりと時間をかけてフォローアップしてあげるだけで,部下や後輩たちの「指導」という意味では十分です。みなさんの職場においては,コーチングだけで部下や後輩の指導をすることはできませんから,そもそも彼らが持っていない知識の教授,あるいは技術の継承,フォローアップは「ティーチング」の出番です。
「やって見せ,言って聞かせてさせて見せ,褒めてやらねば人は動かじ」は現場ではなお健在です。魂の入ったオン・ザ・ジョブ・トレーニングはその仕事を学ぶ上では十二分に機能する大切な研修機能となります。
コーチングはその土台して機能するはずです。
しかし,コーチングの醍醐味は実はこの先です。
もしもコーチングに興味を持ったら是非,コーチングの扉を開いてみて下さい。
《了》